賃貸退去時に注意!原状回復費として請求されやすいポイント5選
引越しは新生活への希望に満ちたイベントですが、賃貸住宅からの退去時には、想定外の出費が待ち受けていることもあります。その筆頭が「原状回復費」です。この費用を巡るトラブルは非常に多く、「普段通り生活していただけなのに、なぜ?」という疑問と共に、多額の請求を突きつけられる借主も少なくありません。
本記事では、賃貸退去時に特に請求されやすい原状回復費の項目を5つに絞り、その具体例と対策、さらに「通常の使用による経年劣化」との線引きの難しさについて、広告色を排し、客観的な立場から詳しく解説します。引越し準備の一つとして、この知識を備え、安心して退去手続きを進められるようにしましょう。
原状回復費の基本:あなたはどこまで責任を負うべきか?
そもそも「原状回復」とは、借主が賃貸物件を借り受けた時の状態(原状)に戻すことを指します。そして「原状回復費」は、借主の故意または過失、あるいは通常の使用を超える利用によって生じた損傷・汚れを修復するためにかかる費用を、借主が負担するという考え方に基づきます。
ここで最も重要なポイントは、「通常の使用により生じた経年劣化は、借主の負担ではない」という原則が法律(借地借家法)で定められている点です。例えば、数年住んでいれば畳やフローリングに自然に出る色あせや小さな傷、壁紙の微妙な変色などは、大家さん(貸主)が負担すべきものとされています。
しかし、現実のトラブルは「故意・過失」と「経年劣化」の境界線が非常に曖昧なところで発生します。 この判断は、退去時の立会検査を行う管理会社や大家さんの主観が大きく入り込む余地があり、借主が「これは経年劣化です」と主張・立証する必要に迫られるケースも多々あります。そのため、事前の知識と準備が不可欠なのです。
請求されやすい!原状回復費のチェック項目5選
以下に挙げる5項目は、退去立会いの際に「修復が必要」と指摘され、原状回復費の請求対象となりやすい典型的な例です。いずれも「普段の生活で起こり得る」ことではありますが、管理側から見れば「過失」や「通常を超える使用」と判断されがちです。
1. 壁の汚れ(落書き、タバコのヤニ、油はねなど)
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なぜ請求されやすいか:壁紙(クロス)の張替えは部分修繕が難しく、汚れた部分があると部屋全体の張替えが必要と判断される場合があります。特にタバコのヤニは頑固な黄ばみと臭いを残し、クリーニングでは落ちないため、張替え理由として扱われやすいです。
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対策とポイント:契約書に「室内禁煙」と明記されている場合は、ヤニ汚れは明らかな契約違反となります。キッチン周りの油はねも、換気扇の定期的な掃除をしていなかった「過失」と見なされる可能性があります。日頃からのこまめな拭き掃除が最大の予防策です。
2. 床の傷・へこみ・設置跡(家具による)
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なぜ請求されやすいか:重い家具の足やキャスターによる床(フローリング・カーペット)のへこみ、傷、変色は、「家具の不適切な設置・移動」による過失とみなされがちです。キャスターの跡が連なった「轍(わだち)」状の傷は特に目立ちます。
生活でつく傷なので家賃に含まれるのでは!?と思うかもしれませんが、一般論として請求されるケースがあります。 -
対策とポイント:「生活していたら当然」という主張と、「家具の下に適切な保護マットを敷かなかった」という指摘が対立する典型的なケースです。入居時から、すべての家具の足元にフェルトタイプの保護マットを敷くことが、最も有効な予防策です。退去時には家具を移動し、床の状態を確認しましょう。
3. 壁面の「電気ヤケ」(テレビ・冷蔵庫の黒ずみ)
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なぜ請求されやすいか:大型家電の背面は熱がこもりやすく、壁紙が長期間にわたって熱にさらされることで、変色(黄ばみや黒ずみ)が発生することがあります。これは「家電を壁に密着させて設置した」ことが原因とされ、経年劣化ではなく「過失」に基づく損傷と判断されるリスクが高いです。
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対策とポイント:家電と壁の間には、メーカーが推奨する十分な隙間(通風スペース)を確保することが絶対条件です。5cm〜10cm程度あけるだけでも状況は大きく改善されます。既に黒ずみがある場合は、退去前に消しゴムや専用クリーナーで軽く拭き取ってみる(※壁紙を傷めないように注意)ことも一手です。
4. 壁紙の変色・剥がれ(ポスター・タペストリーの糊跡)
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なぜ請求されやすいか:両面テープや粘着力の強い糊、画鋲で掲示物を貼ると、剥がす際に壁紙の表面が剥離したり、糊の成分で変色したりします。特に日光が当たる場所では、貼っていた部分だけ色褪せていない「影」が残り、一目瞭然です。
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対策とポイント:「賃貸住宅でもっと自由に飾りたい」というニーズから、壁にダメージを与えにくい「賃貸でも使える粘着フック」や「布用のりで貼れるタペストリー」などの製品が多く出回っています。これらを活用することが賢明です。万が一、画鋲を使った場合は、その小さな穴も修繕費用の対象となり得ることを認識しておきましょう。
5. エアコン取り付けに伴う壁のビス穴
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なぜ請求されやすいか:大家さんが設置したエアコンではなく、借主が自分で購入・設置したエアコンについては、その取り付け・撤去に伴う全ての責任は借主にあります。室外機の設置台のビス穴、配管を通すための壁穴、室内機を吊るす金具のビス穴などは、すべて修復(穴埋め・補修)の対象となります。
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対策とポイント:設置工事を業者に依頼する際は、「退去時に原状回復工事も含めて依頼する」 ことを明確にし、見積もりに含めておくのが理想的です。自分で設置した場合でも、退去時には専門業者に穴埋めを依頼する必要があります。美観を損なわない専門的な補修が求められます。

原状回復費の相場と、請求を左右する要素
修理内容によって費用は大きく異なります。部分的なクロスの張替えで1〜3万円、部屋全体となると5〜10万円以上かかることも。フローリングの傷の補修も範囲により数千円〜数万円、エアコンの穴埋めは1〜3万円程度が目安です。
ただし、請求額を決めるのは「損傷の程度」だけではありません。「入居期間」 が極めて重要な要素です。たとえ上記の傷や汚れがあっても、5年、10年と長期間入居していた場合、裁判所の判例では「その損傷は経年劣化の範囲内」と判断される可能性が高まります。大家側が「長期間住んだのだから、ある程度の傷は当然」と請求を控えるケースもありますが、逆に「長年かけて傷めた」として請求してくるケースもあるため、油断は禁物です。
請求は、入居時に支払った「敷金」から差し引かれる形で行われるのが通常です。敷金が20万円であれば、その範囲内での修繕費が差し引かれ、残りが返還されます。修繕費が敷金を超える場合は、さらに追加で請求されることもあります。
請求を防ぎ、適正に交渉するための3つのステップ
ステップ1:入居時と退去時の「記録」を確実に
最大の防御策は、入居時の室内状況報告書(チェックシート) を写真付きで詳細に記入し、管理会社と共有・保管することです。退去時にも、同じ角度で写真を撮り、状態を比較できるようにしましょう。この「証拠」が、経年劣化と新たな損傷を区別する唯一の客観的材料となります。
ステップ2:退去前の徹底清掃と軽微な修繕
プロの業者に依頼するほどではない、軽微な汚れや傷は、自分でできる範囲で修繕・清掃しましょう。壁の小さな汚れはクリーナーで、画鋲の穴は市販のパテで埋めるなど。その際も、「前・後」の写真を撮影しておけば、誠意を示す材料になります。
ステップ3:専門家の同席を検討する(敷金診断士)
どうしても不安な場合、特に「入居期間が長い」「多額の敷金がかかっている」「明らかに高額な請求が来そう」と感じる場合は、敷金診断士(返還請求コンサルタント) への相談を検討してください。彼らは借主側の立場で、退去立会いに同席し、法的に不当な請求を抑止し、交渉をサポートする専門家です。費用(相場:2万5千円〜3万円+交通費)はかかりますが、不当に数万円〜数十万円を差し引かれるリスクを考えると、有効な投資となる場合があります。
まとめ:知識と準備が、あなたの権利と財布を守る
賃貸退去時の原状回復費は、曖昧さと情報の非対称性から生まれるトラブルの種です。請求されやすい5つの項目(壁の汚れ、床の傷、電気ヤケ、壁紙の変色、エアコン穴)を認識し、入居時から予防策を講じ、退去時には記録を残すことが、何よりも重要です。
長期間の入居は、あなたにとって強い味方(経年劣化の主張)にもなり得ますが、油断は禁物。最終的には、大家さん・管理会社との関係性や契約書の内容も影響します。もし不当な請求に直面したら、まずは「入居時の写真と報告書」を根拠に冷静に交渉し、必要であれば敷金診断士などの専門家の力を借りることも選択肢に入れましょう。
引越しの忙しさに紛れて後回しにせず、退去のプロセスを一つの責任ある手続きとして捉え、スムーズで納得のいく区切りを迎えましょう。